傍観からコミットメントへ 家入一真と妊婦をめぐる振込祭り騒動

傍観からコミットメントへ。21世紀が引き起こした社会の変化を一言で言い表すと、こういう表現ができるかもしれない。

 

劇場型アイドルという新たな形態を生み出したAKB48ももいろクローバーZはその典型的な例だし、ニコニコ動画が産んだネット上の多様なコミュニティはニコニコ超会議というリアルの場に姿を変えた。音楽業界はCD不況を打破するために、音楽をCDというパッケージで売ることからライブにファンを巻き込み物販で稼ぐモデルに軸足を移しつつある。

 

インターネットによって情報流通やコミュニケーションのコストは大幅に低減した。その結果、情報・コンテンツの価値は相対的に低下した。誰もが情報を発信できる手段を得てた。価値ある情報を発信できる能力や蓄積を持っていればマスメディアを経由せず、自らがメディアになれる時代だ。

 

それは受け手にどのような変化を与えたのだろうか。一言で言えば、情報の受け手は「コミットメント」への欲求の高めていった。みな、何らかの出来事に自分を巻き込みたがっている。事件の当事者になりたがっている。そうした時代の流れを上手に汲みとった者が21世紀ならではの恩恵を得ている。

 

そうした恩恵は有名人に限らず、ただの一市民にももたらされるようになった。

 

4月に出産を控えたポムコさんもその一人だ。出産費用と借金返済のために家入一真さんへ飛ばした彼女のツイートがきっかけを紡ぎだした。

 

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借金 35万・貯金ゼロの妊婦が Twitterに口座を晒し出産費用のカンパ(痛いニュース)

 

 

 

 

 

 

ひとつの出来事をめぐり、多くの人が意見を飛ばし合う。辛辣な意見も、同情的な意見も、傍観者的な意見も、あらゆる意見がそのひとつの出来事を巡ってインターネット上を駆け巡る。中には、実際に振込をする人も現れる。

 

興味や関心の濃淡はあれど、共通するのは単なる傍観者という立場を超えて、その出来事へコミットしたい、飛び込んでいきたいという当事者意識だ。

 

当事者であることで感情が生まれる。他人との対立や共感が生まれる。何かの感情をめぐり、物理的に離れた人々が感情を共感し合える。

 

なぜ名も無き一人の女性にお金を振り込む奇特な人々が次々と現れるのか。それは、その出来事の当事者にみななりたいと感じているからだ。退屈な日常を何か豊かなものに変えたいと思っているからだ。テレビの向こう側にいる人達に直接語りかけることが出来る人達は少ない。でも、インターネットならそれが出来る。いますぐにアクションを起こすことが出来る。そして、その反応がダイレクトに返ってくる。その事自体が一つのエンターテイメントなのだ。

 

これは20世紀には有り得なかった。もちろん雑誌やTVなど中心となるメディアはあった。しかし、マスメディアが中心となって市中のひとびとの声をすくい上げフィルターを掛けて交流が行われるという部分的なものでしかなかった。多くの人はメディアの前でひとりごとをつぶやくだけ。次の日に会社の同僚や学校の友人など狭いコミュニティで感想を言い合うだけだった。

 

今や、その中心は消えた。単なる個がひとつのテーマをめぐりくっついたりぶつかったり離れたり、その衝突の中であらゆる言説が生まれたり消えたりする。21世紀のダイナミズムは、コミットメントから生まれる。

 

ちなみに僕も振り込んでみました。健康で健やかな赤ちゃんの誕生を心より願っています。

 

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