有馬記念とは何だったのか
少し遅めの午後二時。僕は船橋法典駅にいた。駅は人でごった返し、係員たちが大声でアナウンスを繰り返していた。僕は人間の欲望と失楽や希望と絶望をかき乱してくれることを期待してここにやって来た。
しかし、この雑踏は何なんだ。こんなに人が多いなんて聞いてないぞ。西船橋から船橋法典へ向かう電車は、新宿駅から中央線下りの終電を凌駕するであろう混み具合であった。
仲間と合流した。我々は付け焼刃的の知識で目的のレースである有馬記念の行方について、議論を交わした。
「三連複って上位3馬を当てればいいだけらしいぜ。なんか行けそうじゃね?」
「オルフェーブルにとりあえず賭ければいいらしい」
「オルフェーブルは8割の力で圧勝らしいからね」
「まあ、固いっしょ」
楽勝ムードの中、我々は戦いの地へと一歩一歩力強く進んでいった。
競馬場は人々の熱気でごった返していた。どこを向いても人、人、人。床には当たらなかった馬券と書き損じた投票券と競馬新聞で埋もれていた。日本で唯一、ポイ捨てが許されている空間かのようだった。いや、許されているのではなく諦めている。どこにも「ポイ捨てはやめよう!」みたいなマナー向上を呼びかけるポスターは貼られておらず、抵抗することすら諦めた雰囲気であった。
僕たちは初めての空間に酔いしれ、四苦八苦しながら見よう見まねで投票権の記入を済ませ、長蛇の列に並んで馬券を購入した。
オルフェーブル(6)とゴールドシップ(14)を軸に若干日和気味なバランスよく組み合わせたつもりの組み合わせ。3連複は何が来るのかさっぱり分からなかったので適当に名前のかっこよさと日刊競馬新聞予想を参考に決定。
そうこうするうちに出馬時間が近づいてきた。我々も戦いの場所へと急いで移動した。
「なにも見えねえ。。。」
貧乏人席は情け容赦無い人の群れで埋まり、少しもレースの様子がわからない。しかたないので、室内のスクリーン前へと戻る。
パーンッ。
というスタートの合図とともにゲートが一斉に開く。馬が走りだし観客のボルテージもどんどん上がる。次第に歓声が大きくなる。我々の興奮も高まる。
レースは予想通りのオルフェーブル一着。で、結果は6-4-14。ゴールドシップがんばれよ。。。ということで、3300円の投資が1600円へと変わった。1700円の損。
馬券購入時より明らかに治安が悪化したように思われる馬券購入(換金)機の列に並び、1600円を取り戻した。途中、オバサンが列から押し出されて、列を抜かされていた。私の順番でしょっと懇願するオバサンの声は、うるせえ黙れというヤンキーによって遮られオバサンはトボトボと列から離れていった。
一緒に行った友人はボロ負けだった。僕たちは肩を落としながら元来た道を歩いた。
※勝利インタービューに応える池添騎手